アルバニア国鉄が荒廃してるというのは本当か【完全解説】

 

 

 

 

イントロダクション

 

どうも。NSZ山本です。アルバニアという国をご存知ですか?

アルバニアはアドリア海に面した国です。イタリアから海を挟んで反対側と言えばイメージしやすいかと思います。

 

 

1912年、アルバニアはオスマン帝国から独立しました。それ以降100年以上にわたって独立を保ち続けています。

地理的には周囲をユーゴスラビアに囲まれていましたが、それとは特に関係なくWW2以降一貫して独立した国家です。

 

アルバニア社会主義人民共和国

 

1944年から1992年までアルバニア社会主義人民共和国という国でした。

このアルバニア社会主義人民共和国時代に、異端な政策を取り続けました。

 

鎖国

「アルバニアは第二次世界大戦後にほぼ鎖国状態となり1978年から完全な鎖国状態となった。経済は低調で、長年欧州最貧国の扱いを受けていた。国民はみな貧しく、ある意味では平等な状態にあった。」-wikipedia

 

無宗教国家

「アルバニアは国内での激しい宗教対立を背景に1967年、共産圏でははじめて、内外に「無神国家」を宣言した。これは国民すべてがいずれの宗教も信仰しておらず、そのため国内にはいかなる宗教団体および宗教活動は存在しないという宣言である」 -wikipedia

 

国民に宗教の自由を禁止し近隣国と一切断交。社会主義政策ではあるもののソ連とも距離を取り、閉鎖的ながらある意味完全な平等国家を確立します。

そして1967年の無神国家宣言は西洋圏の常識に完全に逆行するものです。

 

ヨーロッパ諸国から見て余りにも謎、不気味すぎて今のアジアで言う北朝鮮的なキャラクターを確立してしまいました。

 

自由主義化 -アルバニア共和国

 

1991年アルバニア共和国と改称し、翌1992年に非共産党政権がWW2以降初めて誕生しました。

これで晴れて自由主義経済が導入されたわけですが、かえって悪い結果をもたらしました。

 

アルバニアと言えばおなじみのねずみ講事件です。

 

鎖国下、共産主義の箱庭で80年間過ごし、資本主義について何の知識もない国民に、支配層や政治家がねずみ講を謀りました。1/3の国民は投資の意味も知らないまま安易にねずみ講に投資をしました。

そして財産を失いました。

これにはユーゴ紛争に関わる武器の売買があるようです。詳しい事はこちらを読むと良く分かると思います。

国民の半分がねずみ講にあう!アルバニアの近代史 – 歴ログ -世界史専門ブログ

 

1997年、ねずみ講が崩壊し暴動が国のあちこちで起きました。

 

……..

 

1992年の資本主義化から25年以上経過し「ヨーロッパの北朝鮮」的な誤解も解けつつあるかもしれません。

 

しかし私が旅行中ある国(ブルガリアだけど)で「これからどの国に行くの?」と会話で聞かれたとき「アイムゴーイン アルバニア」というと、「ふあつく ALBANIA」と言われました。

未だに周辺国民からの疑念が完全に解消されたわけではなさそうです。

 

…….

 

1992年まで内情が一切不明な謎国家だったアルバニア。2018年(取材当時)特に治安上危険ということもなく、観光入国も出来る普通の国になっています。

 

アルバニア鉄道

 

アルバニア国鉄は HSHの略称で知られています。 HSHはHekurudha Shqiptareが語源なのだそうですが、最後のHは一体何なのか調べても分かりませんでした。

 

Hekurudha Shqiptare or HSH (Albanian Railways) is the state-owned operator of the Albanian railway system. The system’s main passenger terminal is Durrës railway station in the port city of Durrës. -wikipedia

訳) HSHは国家により所有されている鉄道です。主要ターミナルはデュレスです。

 

Hekurudha がアルバニア語で「鉄道」、 Shqiptareはアルバニア語での「アルバニア」という意味になります。

 

 

アルバニア国鉄の路線図

 

アルバニアの鉄道はたった全3路線しかありません。

  • Durres→Kahar
  • Durres→Shkoder
  • Durres→Elbansan

これだけです。

青線のVlore行きはwikipediaによると夏だけ運行しているらしいです。

 

 

廃止区間

 

そして驚愕の廃止区間を含めた路線図がこちら。細かい枝線は調査が困難なので書きませんでした。

主に2012年から2015年にかけて末端区間で廃止が進んでいます。

Rail transport in Albania –  wikipedia (en)

 

① Librazhd – Pogradecはアルバニア鉄道の中で最も美しい区間でしたが2012年に廃止になりました。

 

 

② Elbansan – Librazhd についてはwikipediaに情報がありません。

ヨーロピアン時刻表2015夏に掲載しておりり、2018冬号にはダイヤも路線図も消えていました。

おそらく2015~2017年頃廃止と思われます。

 

 

③ Rrogozhine – Vlore は2012年から夏のみの運行です。

 

 

④ Feir – Ballsh については1998年のヨーロピアン時刻表に載っているのは確認しました。正確にいつ潰れたかは分かりません。

 

 

⑤ 2013年には首都ティラナへ乗り入れる区間が廃止されています。

首都に乗り入れる区間を廃止なんてびっくりだ。

Kashar から Tiranaは2013年9月から運行していません。

旧ティラナ駅は新しい道路を作るために更地になりました。

首都ティラナ駅は新しい道路の礎となって消えました。

幅広い道路で快適そうです。未開通なので車は走っていません。

 

 

首都トラム計画(挫折)

 

元の鉄道を廃止した区間のうち、首都に近い区間は道路化すると同時にLRTを走らせる計画があります。

写真は工事現場の垂れ幕に完成図が書かれているものです。

 

 

Tirana tram project worth 155 million Euros announced, foreign companies want the concessionary agreement(2014)

計画によると新しいトラムは、全長9km、総工費1.5億ユーロ、運賃50ALL(0.33euro)です。

2017年の年間旅客輸送人員見込は6800万人です。

 

2017年の見込み乗客数..?

2018年2月に私が行った時は全くレールが敷かれる予兆すらなかったけど。

 

 

“tirana tram project”でグーグル検索して、出てくる結果のニュースが2014年で止まってます。恐らく何も進んでいないのでしょうね。

元々あった国鉄は廃止の一途、未来のトラム建設は多分無理。

アルバニアの鉄道はとにかく衰退一直線を辿っています。

 

一方でバスは繁栄している。

 

バスは大盛況

 

アルバニア国民の移動手段はもっぱらバスです。

ミニバスという、人数が集まったら出発するという仕組みのバスが走っています。

 

ここは首都ティラナのミニバスターミナルです。

国の各地に向かうバスがひしめいています。

 

「客が満杯になるまで走り出さないっていつ出発するか分からないじゃん」なんて心配する必要はありません。

いくら運が悪くても30分も待てば大抵満席になり走り出します。こんな様子でアルバニア人の移動手段は基本的にはバスです。

鉄道があの様じゃしょうがないよね。

 

アルバニア鉄道のここが凄い

 

①国民に忘れられてる

 

首都ティラナから鉄道ターミナルのあるデュレスまで移動していた時の事です。上記のミニバスに私は乗っていました。

バスの隣の席に座ったアルバニア人と雑談をしていました。

 

アルバニア人「これからどこ行くの?」

山本「デュレスからショコダルまで列車に乗るんだ」

ア「No train. you need take a bus (電車なんて無えよ。バスで行けるよ。)」

山「うそやん」

 

デュレス駅にバスで到着。ショコダル行きの列車がここに来るはずなのです。

 

アルバニア人の言葉をもう一度脳内で再生する山本。

「NO TRAIN. YOU NEED TAKE A BUS. (buuus… buus.. bus. (エコー))」

 

嘘であってくれと思いつつデュラス駅の切符売り場に足を踏み入れた山本。

アルバニア国鉄デュレス駅の切符売場です。営業してます!

実際走ってました!走ってるよアルバニア人!

自国民に存在を忘れられてるってまじかよ。

 

 

②破壊された客車

 

アルバニア国鉄の名を有名にした理由はこれ。

国民の破壊行為(bandarism)で粉々になった窓のまま走ってる車両でしょう。

 

車両はDB(ドイツ国鉄)でかなり昔に見かけたことがある人が多いかと思います。

 

これは Silberling という1959-1980年まで製造していたDBの客車です。

 

そのお下がりをアルバニア国鉄は使っているようです。

 

 

Ausbesserungswerk (アウスベッサーウングスワーク?)

1980DR Halberstadt

 

“An Ausbesserungswerk is a railway facility in German-speaking countries, the primary function of which is the repair of railway vehicles or their components. It is thus equivalent to a ‘repair shop’ or ‘works’.”  -wikipedia

訳:Ausbesserungswerk というのは主に鉄道車両修繕を行う施設です。それゆえ”リペアショップ”と呼ばれます。

 

正雀みたいなものらしい。

 

ドイツ中部のハーバルシュタットという街にある工場で1980年に修理したということでしょう。

 

トンネルに入ったとき。

電灯はもちろん点きません。

 

ドアは手で開ける。

 

Bitte nur mit gultiger fahrkarte  ドイツ語そのままですね。

 

こういった普通列車用のDB客レに今のドイツで乗れる機会は少ないと思います。アルバニアでノスタルジーに浸るのもよいかもしれません。

 

 

③機関車はかっこいい

 

機関車はČKD T-669 というチェコスロバキア製のもの。

T669 は1968年から1990年まで製造されました。最高速度は90km/hです。

 

CKDはČeskomoravská Kolben-Daněkの略です。

あの有名な路面電車タトラカーを作った会社と同じ会社です。

 

 

 

ČKD PRAHA / CZECHOSLOVAKIA

88年製なので、末期に製造されたものですね。

 

チェコスロバキアという国名も懐かしいです。

 

 

 

緑の塗装もあります。

 

これも88年製。浮いた錆が愛おしい。

 

④ダイヤ

 

既に察せられてるかもしれませんが、

アルバニア国鉄の列車運行本数は極めて少ないです。

アルバニア国鉄の主要ターミナルのデュレス駅。ここにはアルバニア国鉄の全路線が集結しています。

デュレスに貼られている全列車の時刻表がこちら。大きな模造紙に巨大な文字が書かれています。

  • Durres – Kashar 1日2往復
  • Durres – Shkoder 1日1往復
  • Durres – Elbansan 1日1往復

以上。

プラス、ヨーロピアン時刻表2018冬によると、Rrgozhine – Elbansanの区間列車が1往復あるとのこと

つまり

全国土合計1日5往復。

ただし、ここまで本数が少ないのは、私が訪れたのが2月で冬ダイヤだからという可能性もあります。

 

 

⑤踏切は手動

 

いくら本数が少なくても踏切は閉める。ぽっぽやですね。

 

良く見ると、

重しが天然石。とんでもねえ。

 

⑥とんでもない運賃

 

HSHは運賃が爆安です。

XE Currency Converter: 1 JPY to ALL = 1.00096 Albanian Leke

アルバニアレクと日本円のレートはほぼ1LEK = 1JPYです。

 

アルバニア国鉄の旅客運賃がこちら。

デュレス – エルバンサン

98km → 大人140LEK = 140円

 

デュレス – ショコダル 

104km → 大人180LEK = 180円

 

京王線 新宿 – 高尾山口

37.9km → 大人 360円

 

富山地方鉄道 電鉄富山 – 立山

34.0km → 大人1200円

 

100km近く乗って140円ってもうほとんどギャグですね。

 

1kmあたりに換算すると

  • デュレス – エルバンサン 1.4円/km
  • 京王 9.49円/km
  • 地鉄 35円/km

なので、アルバニア国鉄は京王電鉄の6.6倍

富山地鉄の24倍コスパが良いです。

 

⑦とんでもない所要時間

 

デュレス – エルバンサン

98kmが2時間50分  →平均34.6km/h

 

デュレス – ショコダル 

104kmが3時間45分 → 平均27.7km/h

 

デュレス – カシャール

31kmが43分 → 平均43.25km/h

 

新快速 京都 – 新大阪

39kmが23分 → 平均101.7km/h

 

デュレスからショコダルが異様に遅いです。

時速27kmってロードバイクで勝てますね。

 

 

⑧とんでもない沿線住民

 

私が乗車中ある光景を目にしました。それは写真に収め損ねてしまい残念なシーンです。

 

何人かの子供たちが道路に立っています。

1日1本やってくる珍しい列車。

その列車に向かって沿線の少年達が石を投げてくるのです。

 

なんと無邪気な遊びでしょう。

法律やモラルにがんじがらめになり、自分らの道徳性の高さを鼻にかけ、独自の基準で他者を断罪することに慣れ親しんでしまった我々先進国では決してできない娯楽です。

列車に石を投げるなんで悪い子だなんて日本の矮小な常識で測らないでください。たぶん面白いよこれ。

⑨おもしろすぎる乗客

 

アルバニアの国鉄にアジア人が乗車することは極めて稀なのでしょう。陽気なアルバニア人が私に話しかけてきます。

謎の祭り状態に。

 

まさかリアルに「世界の車窓から」が始まるとは思ってませんでした。

 

この後、途中駅でデカい太鼓を持ったおやじが乗ってきて、みんなで演奏して歌って踊りました。

スマホで録画したんですが残念ながらミスッてデータ消えました。かなし。

 

 

イエア。

 

アルバニア国鉄のメリット

 

アルバニア国鉄のリアルを実感して頂けたでしょうか。

  • 2日で全線乗車できる。
  • 超安い。140円で乗れるから財布に優しい。
  • 昔ながらのDB車両に乗れる。
  • 運が良ければ陽気なアルバニア人と楽しい。

アルバニア国鉄にはこんなにも多くのメリットがあります。

乗りたくなってきましたか?

 

何よりアルバニア国鉄は3路線しかありません。

私はアルバニア国鉄全線乗車したと宣言できます。

1国の鉄道全てに乗り終えるというのも中々達成感があるものですし、2日で全線完了するというコスパも利点です。

(夏運行してるかもしれない路線は乗ってないや。)

 

結論

 

アルバニア国鉄が荒廃しているか?

そう問われたら私は「はい」と答えます。

「荒廃した鉄道」の枕詞と定義しても良いレベルです。

 

 

でもそれは息を止めた訳ではありません。

尻尾や手足が千切れようとも(枝線廃止)アルバニア国鉄はまだここに居る。

アルバニア国鉄の機関車は今日ものんびり平均時速20kmで窓が粉砕された元DB客車を引っ張っています。陽気な客と車掌を乗せて走っています。

 

終わり過ぎてて逆に面白すぎるアルバニア国鉄、是非一度乗ってみてください。

 

 

鉄道以外でもアルバニアという国自体は物価が安くて長期滞在するにも良いですし、オスマンやビザンチンの遺跡が残りいくつかは世界遺産にもなっています。

面白い国なので、ぜひヨーロッパ旅行の際はアルバニアに立ち寄ってみてくださいね。

 

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