渡航 2019年10月
セルゲイソ連スキーです。ジョージアの北西に位置し現在たった8か国が承認しているアブハジア共和国。行ってみたら日本中古車が流れ着いました。
日本人はアブハジアを知らないけれどアブハジア人は日本を知っている
アブハジア。この記事を読んでいる人はもう知っていると思いますが、恐らく日本国民のうち99%はその存在すら知ることなく一生を終え永眠していくでしょう。
しかしアブハジアは日本を知っています。1万キロ以上離れていながら日本車が出回っているからです。右ハンドル。低排出ガス達成シール。車庫証明。カロッツェリア。もちろん新車で左ハンドルのランドクルーザーなんかも走っていますが日本車の内7割か8割くらいが中古車でした。
豊田アイシス。輸入仕立てなので文字がガラスに書いてあり、ナンバー無しです。なんてこったい。
窓に貼られている文字を見ると、ノボロシシイスク Novorossiysk の港へ輸出された痕跡があります。Novorossiysk はロシアの黒海沿岸の港湾都市です。そこからトラックで300kmほどアブハジアまで運ばれてきているらしい。
輸入したてのフィットに試乗
線路をうろうろ歩いているとき、とある廃駅で10人くらいの男が作業している場面が見えました。隣にはナンバー無しのフィットがトランクやドアを全オープンして停まっています。近づいてみると廃駅で車の積み卸し作業をしていました。
これが現場。左のフィットは男の誰かの私物。奥のFitは輸入したて。全く同じ車種なので、別の男が間違えてナンバー付きの方に乗っていこうとし、その車ちゃうわって突っ込まれてました。
自動車に輸出というと自動車運搬船を連想します。フグのように膨らんだ巨大な船。船内には駐車スペースが何階もあり、すごいドラテクの作業員が車を数cmの隙間で並べていく。テレビの新車の輸出の資料映像ではよく出て来ます。(資料映像に毒されすぎ)
アブハジアへの中古車は違います。コンテナを利用したドアtoドア。海運の資料映像でよく見る40フィートコンテナ。
ホームの高さを活用してコンテナに入っている4台くらいの車を取り出します。
輸入したてほやほや。マークX。
コンテナ内はジャッキで釣り上げて二段になってるのね。もちろん無駄に空気を運ぶわけにはいきませんからね。
コンテナ輸送で思い出したのは『コンテナ物語』という書籍。
コンテナ物語―世界を変えたのは「箱」の発明だった | マルク・レビンソン, 村井 章子 |本 | 通販 | Amazon
コンテナのおかげで、現在信じられないほどの安い国際間輸送が支えられています。コンテナが無ければ東南アジアで安い労働力を使う(それが良い事かはさておき)こともできません。賃金の国際間格差より輸送費が上回ってしまったら、工場を海外に移転する意味は無くなります。
コンテナが無かった時代は、港湾の荷役は手作業で規格のバラバラな木の箱や藁の袋を大勢の人手で車から船へ移動させていました。それは多くのコストがかかりました。人の手によるものということは破損の輸送事故の原因です。
現在のコンテナを考え出したのは海上輸送など全く関係ないよそ者、ひとりのアメリカのトラック野郎でした。初期のコンテナはコンテナの規格がバラバラでそれを統一するのが困難だったとのこと。また港湾の労働組合は強力にコンテナ導入を強く阻止しようとしました。大量の失業が待ち構えているからです。事実多くの解雇は発生したとのこと。
労働組合が強い古くからの港湾はコンテナ設備を拒否し、逆に新しい港は早くコンテナ用設備を導入したため、古い港湾は衰退し、新しい港は荷役量が増え発展した事例が書かれていました。
この本はかなり興味深いのでおすすめです。448頁、新品約3000円
輸入仕立てのフィットには高尾山のお守りシールが貼ってありました。私も流石にアブハジアでこういう場面に出くわすと思っておらず、せっかくなので撮らせてくれと言ったらしばらく話になりました。
アブハジア人もまさか辺鄙な廃駅に日本人が来るのは珍しい。というか初めてだったのでしょう。なんでこんな所に居るんだと聞かれました。撮り鉄と説明するのは事実であってもあまり賢明ではありません。列車を撮るという行為自体認識されていない可能性があります。近くの川で遊んでいたと答え(これも事実)、そこで泳いでみたと言ったらこんな寒いのに頭の変な奴だ…というリアクションをされました。確かに水は冷たかったんですが海と違って頭がカピカピにならなくていい説明するまでの語学力は無かったので、大人しく頭のおかしい奴というカテゴリーに甘んじます。
カーナビ設定係
フィットのカーナビについて聞きたいことがあると言ってきたので何だろうかと思っていると、カーナビを英語にできないかと頼まれました。
とりあえず試しにいじってみることにしました。この旅行では色々と頼まれます。
言語設定が無いか探してみました。しかしない。どうやってもない。日本製のカーナビは日本で使うことしか考えられてないんですね。仮に英語化できても地図のデータは無理でしょうけど。
GPSを見ると青山付近を指しています。全然だめですね。
ところでアブハジアには仮ナンバー制度は無いらしくこの車は普通に行動で走って問題ありません。
たった2万キロのフィットに便乗
安ホテルのある街ガグラまで6kmくらい。バスに乗るつもりでした。それを話したところそれなら乗って行けと言われました。ガグラの洗車場まで行くのでついでにナンバー無しのホンダにタダ便乗。
アブハジアには丁寧に運転しろとか同乗者を怖がらせてはいけないとかいう村の掟はありません。アブハジア人の雑な急ブレーキや旧ハンドルの運転に揺られます。
助手席から運転席のメーターを見ると、なんと19000キロ弱を指しています。僕も少ないなとは思ったんですが、案の定アブハジア人も思ったようです。なんでこんなに乗らないで売られたんだ。と言ってきました。私も低走行で売り払ってしまう人の気持ちは知りはしません。僕が昔乗っていたトッポBJは11万キロまで行きました。ニズナーユ(知らん)と言った後、一応何か答えておこうと思い、「たぶん婆さんが使っててあんま乗らなかったんじゃね?」と言っておきました。通じてるかわからんけど。
無賃送還ありがとう。
現在進行形で輸入が進んでいるらしい
他にもコンテナから車を降ろしている場面を見かけました。
スフミ駅の横で。
駅構内にある段差利用して車を下ろしていたところです。スロープを使わずこうして積み下ろすんですね。左端の車はホンダかな。
街中
現在進行形で輸入が進んでいるので最近日本人に人気なミニバンが結構います。明らかに日本人がつけたライトのアクセサリー。ステップワゴンの初代かな。
アブハジアの街を見ているとノアやボクシーみたいなミニバンが結構います。ウラジオストックやハバロフスクの極東ではミニバンは見ない車です。ロシアは日本の中古車をあまり良く思っておらず輸入規制をしています。そのため最近出た中古車はあまり走っていません。輸出先を失った日本の中古車業界や国際輸送業界はついにアブハジアを見つけたようです。
推測なのですが、欧州の中古車は流れてきても良い気はしますがアブハジアの国際関係の立ち位置ち上、欧州はアブハジアへ車を輸出しないんでしょう。グルジアは親ヨーロッパで、グルジアと敵対するアブハジアを支援しづらく、一方あんま関係ない日本がアブハジアの自動車普及率向上に役立っている。と思われます。ハンドルがどっちだろうととにかく車が必要が必要なのでしょう。
ラーダやヴォルガに混ざっているトヨタヴォクシー
ウラジオストクみたいに日本車が9割を占めるということは無くラーダやヴォルガのロシアカーや、欧州車もあります。右ハンドルは3割くらい(あくまで体感)。
ミニバンはタクシーに人気です。ステップワゴンの3代目。2005-2009の結構新しいモデルなんですが走ってます。
輸出会社
アブハジアの車に貼ってあったシールにGLOBAL CAR TRANSPORTの文字とURLがありました。
何の会社、どこの会社なのか気になって調べたところ横浜市西区北幸のビルの一室にある会社らしいと判明。
High Quality Japanese Used Cars For Sale | SBT Japan
日本に住んでいる限り知る事も決してない会社名。ウェブサイトはもちろん英語のみ。こんなのあるんですね…
他にもjapan auto com でググってみると色々なサイトが出て来ます。
これとか。
Japan Auto Sale | Japanese Used Cars Exporter
以上アブハジアに流れ着いてしまった自動車たちでした。
ひょっとしたらあなたが売り払ったミニバンやコンパクトカーは、今アブハジア人の手で、アブハジアの穴があいてる道路や砂利道の上を、急加速の無茶苦茶雑な運転でやんちゃに走っているかもしれません。