世界最短1両ぽっきりのВЛ10 クタイシ ジョージア

 

まずはこちらの写真をご覧いただきたい。

 

貴方には見えるだろうか。マッチ箱レベルの客車が。圧倒的に長さが足りないのである。

ВЛ10 は6,165 hp (4,597 kW)。EF64が2,550 kWなのでEF64の1.8倍だ。100両くらい貨物を引こうと思えば引ける。

 

上が一般的に想像するVL10、下が今回のVL10である。

貨物を牽引するジョージア本線のVL10は堂々とした顔立ちに見えるのに対し、下のVL10はどこかしょんぼりしてみえる。窓際に追いやられ毎日どうでもいい仕事をさせられている窓際族のサラリーマンみたいに、あるいは上司に逆らい復讐として支所に左遷させられてしまったみたいに、自信を失いしょんぼりしているように見える(気のせいだろ)

 

 

客車は16m程度と思われる。最も短い単行ВЛ10と呼んで差し支えないだろう。たった1両のしかも20mもない客車のために全長は2×16,420 mmのВЛ10を利用している。

 

完全にオーバースペックだ。

 

例えるならインターネットエクスプローラーしか使わない親父にRyzen、天草エアラインにA380を導入、カップラーメンのお湯を沸かすのに原子炉、友達の家のドアをノックするために浅間山荘で使う鉄球を用いるといったレベルである。

 

 

厳密に言えば2両で1ユニットなので、2両の機関車を用いて1両の客レを引いているという解釈が成り立つ!なんてこった。無駄すぎる。昭和の日本国有鉄道でもここまでやらなかったのではないか僕は知らんけど。

 

 

場所

 

場所はジョージアのクタイシという街からツカルツボまでの路線だ。

ツカルツボは元ソ連のサナトリウムがあった場所で使われなくなり廃墟と化した。1989年アブハジア紛争が発生し、アブハジアに住むジョージア系の市民は難民になった。ジョージア政府はツカルツボの巨大なソ連ホテルに仮住まいとして住むよう難民に指示した。しかし結局紛争が解決せず元の家に戻れなかった。新しい住まいを与えられることなく、未だに廃墟のソ連住宅に難民が住み続けている。

以下の動画は興味深い。

Tskaltubo: Georgia’s abandoned resort that refugees call home – BBC News

 

 

時刻表

 

  • Kutaisi 1 5:30 Tskaltubo 8:55
  • Kutaisi 2 9:10 Tskaltubo 9:58
  • Kutaisi 2 15:00 Tskaltubo 15:48
  • Kutaisi 2 17:20 Tskaltubo 18:08

 

  • Tskaltubo 8:00 Kutaisi 2 8:48
  • Tskaltubo 10:10 Kutaisi 2 10:58
  • Tskaltubo 16:00 Kutaisi 2 16:48
  • Tskaltubo 18:20 Kutaisi 1 20:10

 

4往復ある。始発駅はクタイシ2だ。始発の便はクタイシ1から発車で電光掲示板には5:55発車と書いてあったので早朝5:45に出向いてみた。しかしダイヤ改正したのか5:30発車になっていたらしい。既にそこには居なかった。切符おばちゃんに聞いたらクタイシ2だ!ネクストステーションだと言われた。

電光掲示板くらい直してくれよ。

 

 

クタイシ2

 

ここは町中に隠された始発駅だ。

駅の入り口という雰囲気がなく幹線道路がすぐそばを走っているのに道路上には駅を示すものは何一つ書いていない。しかもマクドナルドとバスターミナルが駅の前に堂々と建立し駅を隠している。

クタイシ2はマリオの隠し土管みたいなものである。マクドナルド横を潜り抜けると駅名の表示すらない売店に使われている建物がある。それが駅らしい。しかし待合室のようなものは探しても見当たらない。

 

それらを突破しホームまで行くとこいつが居る。既に絵面的にギャグである。なぜ1520mmの広軌にお前のようなやつが居るのだよ。

 

クタイシ2は警備が厳しい。ここで撮影すると無愛想な警備員のオヤジが撮るなと言い、その後「ここから出ていけ」と道路の方を指す。私は列車に乗るつもりなのだが向こうは当方が列車に乗るとは微塵も思っていない。ひどすぎる。話せばわかるタイプではなさそうなので一度退散し警備員オヤジが消えてから舞い戻る。めんどい人間には関わらないようにするのは地球上どこでも同じである。

彼が消えた後機回しを終えた列車をしれっと一眼で撮っていると英語がわかる若めの警察に消すよう言われる。

 

終点のツカルツボは警官も警備員も駅員すらも居ない。終点では撮影し放題なのでツカルツボ2駅では大人しくしておく方が懸命だ。

 

 

客車

 

このボロい見た目に反して切符は自動化している。客車内に簡易券売機があり、40セントを入れるとレシートが出てくる。車掌に渡し切れ目が入る。

シートはやわらかい。

 

僕は客車には詳しくない。この16メートル程度でドアが中央にある客車がどこの製造なのかわからない。こんな客車は初めて見た。誰か知ってる人いたら教えて下さい。

それはそれとしてアホみたいに揺れる。時速最大30km/hまでは出ていないのにガッタンガッタン搖れる。窓はもちろん汚い。

 

 

48分で終点に到着する。

 

 

存在意義

 

所でクタイシからツカルツボ間はマルシュルトカ(ミニバス)で20分程度だ。本数は20分に1本とかなり頻回だ。一方列車は50分かかるし1日4往復である。

始発駅では僕の他に爺さん一人。こんな列車は今すぐ廃止しそうだが、思ったより利用客は居た。途中駅からぽつぽつと乗ってくる。ほぼ秘境駅みたいな2つの駅から1人ずつ、他にも何だかんだで区間利用が6人以上いた。

 

途中の秘境駅。ホーム長が短くこれでは札沼線である。秘境駅に見えても通路の先には村落があるのだろう。

 

折返しのクタイシ行き。

途中駅で10名以上乗っていく。空き地にしか見えないがこれでもyandex mapに駅としてプロットしている。

 

運賃は40セント、バスの運賃は1.20なので金をケチりたい人やマルシュが通らない沿線の村にとっては利用価値はあるらしい。

 

 

終点ツカルツボ

 

終点ツカルツボに到着すると客車より長いВЛ10は入れ替えのため切り離される。ツカルツボ駅には駅員すら居ないので車掌が連結器操作を行う。

こんな面倒な操作をするくらいならせめてエレクトリーチカにしろよと言いたい所だが車両の数が足りないんだろう。

 

冬の訪問だが緑が生い茂り雰囲気は良い。

 

 

半分廃墟

 

駅舎に入るとエモい光景が広がっていた。廃墟になりかけた駅舎内。駅員無配置で使いみちはない。椅子もないから待合室としても使えない。

 

外観は神殿のような装飾の柱がある。アブハジアの廃駅を思い出すが、冷静に考えたらアブハジアもジョージアですね。

 

アブハジア 愛すべき廃駅たち

 

ツカルツボ駅は完全廃墟と思いきや事実は違った。

2階がホーム階、1階はロータリーに面している。その1階にツーリストインフォメーションがある。観光客はマルシュで来るのでここを訪れる事はほぼ無いだろう。街の中心部に作ればよかったのに。

職員は暇そうで、無料で地図をくれる。

 

 

終わりに

 

最も短いVL10牽引列車はもう一箇所ある。クタイシ1からTkibuli駅の間だ。そちらは山岳路線でたった40km強を3時間かけるとんでもないやつだ。

 

クタイシに来たらそちらも合わせて見てみてください。

 

 

 

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